迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説

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今のところ梅雨は一休みということか、
黎明の白ばかりが広がっていたうちはどっちつかずだった空模様が、
曇天ぽい白から青いところをぼちぼちと覗かせ始めており。
ブッダがいつもの日課のジョギングから
アパートまでを戻って来た頃にはもう、
生まれたての朝の陽があちこちへと鋭く射込まれ、
その翅を次々広げていたような
朝一番の冴えた目映さもすっかりと馴染んでのこと。
心地のいい明るさが樹木の梢に弾けるばかりという、
初夏の爽やかでのどかな朝の風景が
立川の住宅街にも昨日の続きという通常運転で戻って来ており。

 「先生、ブッダさん、おはようございますっ。」
 「あ、おはようございます。」
 「早かったね、ちゃん。」

こうまで過ごしやすい頃合いになっても、
実は相変わらず寝坊するイエスが珍しくも早起きし、
朝食も終え、身支度を整えていたところへ、
元気溌剌、ドアへのノックと共に、
伸びやかなお声でのご挨拶を届けてくれたお嬢さん。
着替えは持って来ていなかったか、
ポロシャツにミディア丈のフレアスカートという
ざっくりしたいで立ちは昨日と同じだったけれど、

 「まんが喫茶って凄いですね。
  シャワーもあればドライヤーも置いてあったし、
  夜食もモーニングも頼めて。」

ちょっとしたビジネスホテル並みでした、
あ、わたしビジネスホテルにも泊まったことありませんがと。
特に狙っちゃいないのだろうが、初心者のコントみたいな言いようをして、
二人の聖人たちを あははと苦笑させている彼女こそ。

 『私をどうか弟子にしていただけませんかっ!』

そういや まだこっちは名乗っていなかったというに、
戸棚で見つけた奇跡のパンに魅せられて、
それを“作った”イエスへ弟子入りしたいと
無体な懇願して来た奇特なお嬢さん。
中央区にお住まいの、高校三年生のという娘さんであり。

 『だって、この瑞々しさはどうですか。
  質感はバターを使わぬフランス風の手法を感じさせつつも、
  きめの細かいしっとりもちもちな仕上がり。
  これは日本の食パン独自の繊細さに他なりません。』

本家のこちらとしては、
いつか元の食器へ戻るのを待つ
いわば“仮の姿”だという把握しかなかったそれらが、
そういや何日もカビもせずに保つよなぁくらいしか
解くには感慨も持っていなかったところへも。
フランスパンの手法を用いているから…という解釈を持って来た、
それなりの慧眼までご披露くださった、正真正銘、本物のパン職人様であり。

 『今すぐに答えを下さいとは申しません。
  わたしの頑張りを見た上で、
  物になりそかならぬのか、厳正に断じて下さいませ。』

紛れもない純正品の無垢な純真さから、
どんな試練も艱難も乗り越えて見せましょうぞとの決意を
見る間にもりもりと固めてくださった、若さという柔軟性の恐ろしさ。
結局、やはり実家へは帰らぬまま、
昨夜のところは、駅前の漫画喫茶のオールで一夜を明かしたというから、
その気になってる十代の行動力は恐ろしい。
学校行事以外の外泊なんてしたことがないなぞと、
ぽろりと暴露していた、やはりやはりお育ちのいいお嬢さんであったくせに、

 「大丈夫だったかい? 一人での外泊。」

お元気なお嬢さんご本人へは憎めないなという好感もあってのこと。
さあどうぞと上がっていただき、
唯一の居室の真ん中へ出されていた卓袱台につくことを勧め、
お茶を出して差し上げつつ、ブッダが案じていたよと訊いたれば、

 「ドキドキしましたが、よく眠れましたvv」

それは無邪気に胸元押さえ、初体験を語ってくれる。
何でも、新装開店したばかりのその店では、
シャワールームやパウダールームが併設されてもいる関係か、
暗黙の了解による徹夜組、オール利用の客へのせめてもの心遣い、
公序良俗の最後の砦として、
男女のお部屋指定設定が随分と厳然としているそうで。
都心の繁華街ほどには利用者も少なくて、
夜もとっぷり更けるとそれは静かなものだったとか。

 「それでもお金がかかったのでしょうに。」

大丈夫でしたか? 朝ご飯くらいならここで食べてもいいのですよと、
さすがは慈愛の人・ブッダ様、
鬼嫁や鬼姑(?)にまではなれないか、
早く実家へ返したいとしつつも、そんな情けをついつい覗かせてしまえば、

 「それが大丈夫だったんですよぉvv」

昨日だって真摯に案じてくれた、
それは優しいお兄さんだと察しての甘えてだろか。
えへへぇと嬉しそうに笑ったさんがバッグから取り出したのは、
ラミネート加工をされたパスみたいなカードが1枚。
運転免許証のように小さめの証明写真つきの、結構本格的なそれだったが、

 「あのまんが喫茶って、
  女性専用スペースを開設したばかりだったようで、
  その記念にっていうクジを引いたら、
  10日分のフリー優待パスが当たってしまってvv」

なのでと、
きっちり朝ご飯も食べてのこと、
朝シャンしてのすっきりとした身と心でもって、
おはようございますと松田アパートを訪のうたらしき、
パン職人としてのイエスの弟子1号さんは。
スリムな湯飲みへ丁寧に淹れていただいたお茶を堪能すると、

 「原料はそうそう違わないと思うのですが。」

昨日と同様、
専門家ならではの質問がさっそくにも飛び出しておいで。

 「イースト菌は何をお使いですか?」

ドイツやイギリスなど、欧州に多いライ麦パンは、
生地も黒っぽくキメも粗く、堅くなりやすいこと。
そもそも小麦と違ってグルテンを持ち合わさないがため、
イースト菌ではなく
サワードウというものを使ってまとまりを持たせるので、
仄かに酸味のある香りとなることなどなどと、
専門家ならではな知識も持っておいでで。

 「ライ麦だとイースト菌は使いませんよね。
  でもでも全粒粉ではないみたいですし、
  となると混合菌とかでしょうか?」

朝も早よから、
研究熱心なところを発揮するさんであり。
丸い卓袱台、ブッダとイエスに挟まれてという
最聖人ファン垂涎のポジションに落ち着いていたところから、
失礼しますと立ち上がり、
勝手を覚えた流し台までを歩み寄る。
そこに収められてあった、実は元は食器だったパンを手に、
再検討をしようと思ったらしかったのだが。

 「あーっ、パンが増えているっ!」

想いも拠らなんだ事態だったか、
しゃがみ込んだそのまま、とさんと座り込んださんだったのへ、

 “はい、その通り。”

こちらもやや乾いた笑い方で、
的を射たお返事、胸の内にて返した聖人のお二人だったりし。
こんな最中に、尚のブツを増やすなんて何やってんだかなと思いはするが、
彼らにすれば“自然現象”だからしょうがない。

 人助けをしたはずが、
 結果として、結構危機的状況へと陥ってしまった昨日

では“足場”を探して来ますと
一旦アパートを去ったさんを見送ったのがお昼過ぎで。
微妙に押し切られた格好になった状況の、
解決への目処も立たず、考えても考えても答えは出ぬままに。
気がつきゃ夕飯の時間になったとあって、

 ごはんにしよっかと

丸い卓袱台の周りを
思考だけがぐるぐると回っていたよな状態だったので。
そんな気分を切り替えるつもりだったのにね。
枝豆をトッピングしたポテサラに、
素揚げした長ナスに千切りショウガを合わせた煮びたしと、
切れ目へそぼろを挟んで含め煮た、いぬき高野とうふ。
露地ものの完熟トマトにと、
それはヘルシーな御馳走を並べた食卓へ、
さんが置いてった佃煮も追加してのがまずかった。
困った状況の元凶娘でありながら、されど憎めぬ天然さんだったお嬢さん。
そんなお人の手になる逸品へ、やはり“うんまーいっ”と二人して感激し、
その感動がまたもやパンを増やしてしまったまでのこと。

 「やっぱり、ライ麦の粉だけじゃありませんよね、これ。」
 「そうでしょうとも。」

うあ凄いなぁと、その手へ丁重に取り上げて、
昨日もそうしたように、まじまじとの矯めつ眇めつ、
横から下からと眺めて感嘆している嬢へ。
微妙に他人事みたいな言い方になったイエスの言いようへこそ
乾いた苦笑をしたブッダだったのは、

 “今日のはイケア産と なふこ産ですよね。”

実は、ヤマギワパンのフェアでもらったムーメンパン皿も
先日やられたのを戻したばかりで。
だがだが、そんなホントなんてそれこそ言える訳も無く、
ついつい浮かんでしまった、乾いた失笑だったのだけれど。

 “言っても信じてはもらえまい。”

いやいや、この子なら案外と鵜呑みにして信じるかもでは?

 “そこのあなた、マーラの手先でしょうか?”

うひゃあ、怖いですブッダ様っ。
いきなり場外へ意見しないでっ。(おいおい)

 ト書で遊ぶのはともかく。(まったくだ)

早速にも苦行の始まりかと、冷や冷やしておいでなブッダとは、
ちょみっと考えようが異なるものか。
純真な眼差しもて“先生”と呼ばれること、
かつての昔を思い出して 何だか嬉しいらしいイエスはと言えば、

 「いやー。
  ただ、嬉しいことがあると奇跡が起きるだけなんだけどね。」
 「…………っ☆」

こっちが何とか取り繕おうとしているというに、
選りにも選って
焦点に程近いことばかりを
ベロベロと暴露しかかっている相棒さんなのだから始末に負えぬ。
それはあっけらかんと事実そのままを言ってのけた彼であり、

 “イーエースーっ。”

それってどういう意味ですかと突っ込まれたなら、困るのは一体誰なんだか。
まさかに実演する気かな、
真剣に教えを請うているのに手品ですかと怒らせるのも手だろうか。
昨日もちらりと思わないではなかったそれを、
もう空になっている湯飲みを、
ふくよかできれいな作りの手へ持ち上げつつ、
ブッダが ドキドキと先回りして考えておれば、

 「ああそれって、インスピレーションというものですねvv
  配合の上での直感とか。」

 「……っ☆」

いやはや、さんも逞しいというか、
ふっ切れた分 柔軟になったというかで。
そういう考え方ってあり?と、
文章だったなら二度見したくなるような解釈を
満面の笑みにてけろりとご披露くださったところが只者じゃあない。

 「何か降りてくるのですね。さすがです、先生vv」
 「いやいや、降りて来たのは2年ほど前の話だが。」
 「え? そんな、2年でここまでの境地に達したと仰せなのですか?」

よくもまあ、
接点がないままとしか思えないトンチンカンな会話が、
だっていうのに、咬み合ってるかのごとく、
失速せぬままに延々と続くことよ。
見事なボケ発言へコケかけたのを歯咬みしてこらえつつ、
そんな悠長をやってもいられぬ、
早く作戦を開始してと、
ブッダがイエスへちらちらと視線で合図をすれば、

 「……あ、ああでも。あのね?」

ブッダからの、目顔でのサインにやっと気がついたイエスが、
んんんっとわざとらしくも咳払いをすると、
それは厳かな態度を作り、

 「私はそんじょそこらの職人とは違う。
  まずはこれで商売をしようとは思っていないし。」

 「そうなんですか?」

伏し目がちとなった切れ長の双眸は、
彼の彫の深い風貌へ透徹な印象をいざない。
思慮深い哲学者のような口調の低い声音も、
落ち着きを滲ませてのようよう響く。

 「それに、
  弟子なぞ持つ気はさらさらなかったので、教え方とてよう判らぬ。」

 「…っ☆」

なんでそうも時代劇口調なんだかと。
二人の師弟会話には 表向き関わらないポジションを保ってのこと、
片付け物をする構えで流しの前へ立っての
そっぽを向いてたブッダが再びコケかけたものの、

 「よしか?
  私の秘術は普通の修行では体得出来ないと覚悟せよ。」
 「はいっ。」

形から入るイエスならではで、何だか怪しい物言いになっているが、
それを煙たがられたならむしろ重畳。

 『教えたくとも教えようがないのですから、
  ここは一つ、徹底的にはぐらかし、諦めるのを待ちましょう。』

何とも消極的な手法だが、
身元が微妙な自分らが、彼女の実家へ“通報”するのも妙なもの。
さては娘をいいように欺いて連れ出して、金を引き出そうとでも思うたかと、
謂れのない疑いを持たれかねないし、
彼女自身もますますとムキになってしまうやも知れぬ。

 『そこは警戒したか、それともやっぱりうっかりさんだからか、
  実家の住所だの電話番号だの、教えてくださってませんしね。』

ご当地では結構有名な佃煮屋さんだとのことだったので、
HPまでは作ってなくとも、
例えば口コミサイトなぞを覗くとかして、
積極的に調べればすぐにも判るそれかも知れぬが、

  そうまでして追い返したいなら、
  それこそはっきり突っぱねればいいのだと

冷静な判断はそうと断じるのだが、
いかんせん、
あの きゅるるんと潤みの強い無垢な瞳で
真っ直ぐ見つめられてしまうとね。
数多いた弟子たち教え子たちの健気さや純粋さをついつい思い出すものか
強腰になれない困った指導者 AとBだったりする、
ベテラン聖人の二人であり。

  子には厳しくとも、
  孫には甘くなるってホントなんだなぁ……

それはともかく。(う〜ん)

 『昨日の一連のやり取りを思い出すに、
  いきなりの困難が襲い来た、弾みというか勢いというかで、
  自棄になっての思いつきで、
  イエスの弟子になりたいと言い出したような
  そんな傾向もなくはなかったようだから。』

 『えー?』

どさくさ紛れの思いつきで…という言われようは、
さすがに…多少は尊敬の念というのを注がれた身のイエスには、
すんなりとは受け入れ難かったようだけど。
こらこら、このままじゃあお互いのためにはならないんだってばと、
あらためての言い諭され、うんうんと納得したところへ、

 『とりあえずは何日か間をおいてみて
  何やってんだろ私と、冷静になってもらえればよし。』

そも、お料理教室みたいな修行場じゃあないんだってのは、
彼女の側だってそれこそ覚悟していることだろから、
妙な段取りが飛び出しても非難は出来ないと思うんだ。
奇妙な態度をとる先生や、
掴みどころがない修行に辟易してくれたら上出来。
そこでと、本来構えたことのないこと、
こんな修行なんてと閉口し、
私ついて行けませんと自主的に逃げ出してもらおう大作戦を
発動するに至った彼らなのであり。

 「では、何をするんですか?」
 「多少の基礎や心得はあるようですが、それはそれです、別枠です。」
 「はいっ!」

おおお、さすが演技派だと、
洗い物についで、お昼ご飯の下ごしらえをしつつ、
イエスのなりきりぶりをお背(おせな)で聞きつつ感心しておれば、

 「じゃあ、お掃除ですか? お洗濯ですか?
  それとも古タイヤを4、5本引いてのランニングでしょうか?」

 「……☆」

う〜ん、相変わらずといいますか、
相手もなかなかに一筋縄ではいかない凄腕みたい。
つか、この天然ぶりだからこそ、
佃煮屋さんに向いている天性の素質に気づきもしない、
ある意味、要領の悪さを発揮しておいでなのかも知れない さんで、

 「タイヤを引くのが修行になると思う?」
 「えっとぉ…。///////」

腕力はつくかなとか?と、小学生みたいな答えを返した弟子だったのへ、

 「確かに体力も必要ではありますが。」

うんうんと鹿爪らしき頷いて見せると、

 「だが、私の創作に必要なのは
  むしろインスピレーションの方だからね。」
 「は、はいっ!」

いちいちキメ顔を見せるのも、

 “もしかして胡散臭い師匠を演じてのことだろか。”

演技派なのへ磨きがかかったと感心しかかり、
だが、すぐさま肩から力を抜いてしまうと、
それは ないなと、ゆるゆるかぶりを振るブッダだったりし。

 “…いやいや、あれはいつもの彼だな。”

教えを布教していたときのことまでは知らないが、
時々聞くことのある昔話の中で、
ついのこととて、
それらしいキャラを作ってしまったと語ってもいたような。
普段だとて、妙にモテ紀を意識しているし、
彼の血が影響した聖遺物に触れた歯科医の皆様が、
妙にカッコつけの強いキャラになったことといい。
あの、妙にレトロな匂いでクールを気取ってしまうポーズこそ、
彼が得意なレベルのカッコつけ。
乗っているなら むしろ善しだと、心の内にてエールを送る。

 『だから、
  君が 天才肌というか、奇矯奔放な職人さんを演じて、
  一体いつ本気になってくれるのかしらと、
  彼女をじりじりさせるという作戦だよ。』

だって本当にパンなんて焼けはしないのだ、
目の前で実践してやる訳にもいかぬし、真実を述べたところで信じはすまい。
そこで何とか捻り出した、
その情熱、自然消滅してもらおう大作戦だったのだけれども。

 『でも、それって。』

どう持ってけばいいのさ。
難しいことではないだろう?

 『職人らしいストイックな態度とか、修行らしい鍛練とか、
  全くの全然して見せなきゃあいい。』

主旨は判ったとしながらも、
何か言いたげなお顔になったイエスであり。

 『? どうしたの? イエス。』
 『何だかわたしって、
  いつもいつも遊んでいるか
  ダラダラしてばかりいるかみたいじゃないか。』

難しいことではなかろうと言われたのへ、
そうと気がついたらしいところは、
さすがに賢明繊細な神の和子様ではあったれど、

 『何を言い出すかな、イエス。』

匠らしいストイックで厳しい態度なんて程遠い、
甘えっ子で打たれ弱くて、
オンラインゲームについつい流されやすい軟弱者でと
言われたような気でもしたものか。
非難されたような気持ちになったらしく、
視線を伏せるとうち沈んでしまいそうになった友だったのへ。
向かい合ってた位置から手を伸ばし、
卓袱台のうえ、重ねられていた相手の手へ自身の手を重ねたブッダであり。

 『いつだって自然体な君に、
  私は驚かされてばかりいる。』

ほらやっぱりと、
嬢を振り切れなんだ弱腰を
あらためて叱られている気がしたものか。
骨張った肩をすぼめかかったイエスだったのへ、

 『考え方や行動が 柔軟奔放なのは、
  誰へでも別け隔てなくその手を差し伸べる、
  アガペーの為せる技なのだろうし。
  慈愛の深さから駆け出した先で、
  冒険としか思えないことへまで発展させてしまう
  ちょっぴり向こう見ずなところだって、
  私一人では得難いだろう体験を運んでくれるから、
  それは嬉しくもありがたいことなんだよ?』

この、下界へのバカンスにしたって、
イエスが思い立って、一緒にどうだと誘ってくれたのだし。
冷静と言えば聞こえはいいが、
枠から飛び出すことにも慎重が過ぎる自分では、
そうそう体感出来なかっただろう あれやこれやを。
怒ったり笑ったり、困ったりハラハラしたりを、
それは沢山、はいと手渡しでくれた人だもの。

 “まま、私がついてないとと思わせるところも
  少なからず ないではないからでもあるけれど。”

ありがたいと微笑ってくれた、
それも、他でもない慈愛の釈迦如来様にとあって、
いやあのそのと、
含羞みにもじもじしてしまった三十男というのも結構可愛い。

 『もうもう、君ってば さすが口が上手いんだから。』
 『君こそ、その上目遣いは反則だろう。』

仄かにささくれ立ちかけていたわだかまりも
あっと言う間にほどけしまい。
よし、じゃあ頑張るよと、
骨張ってのでも、いかにも男の人らしき手を
ぐっと握って見せたイエスだったのへ、
ああ頑張ってねと、それは暖かく微笑ったブッダが考案した作戦というのが、


  「じゃあ、今日はヴィラスーラ平原を走って来ようか。」
  「………はい?」









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 *本家本元、
  畏れ多くもオリジナルの最聖人様たちはともかくとして、
  こちらの二人は、
  対人において双極の“人誑(たら)し”なんだと思います。
  懐ろ広くして寛大で頼もしい
  慈愛の人ブッダと、(厳しい教育的指導も込み)
  教えを説く段では柔軟強靭なれど、
  平生はといや、ちょっぴり頼りないというか、母性本能くすぐるタイプで、
  その奔放さを支えてやりたいと思わせるイエスと。
  こういうお人には心当たりあります、ええ。
  海賊王を目指してる破天荒な誰かさんも、
  言い方的には同類項じゃあありませんか。(おいおい)

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